日本内部統制研究学会 
 会長 橋本 尚
2021年10月
会長挨拶


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 内部統制は、会社法や金融商品取引法における制度要請のみならず、コーポレートガバナンス・コードにおいては、先を見越した全社的リスクマネジメント(ERM)体制の整備とともに、経営陣による適切なコンプライアンスの確保とリスクテイクを支える仕組みとして、有効なガバナンスの重要な基盤をなすものと捉えられています。
 近年では、財務報告と非財務報告を包含する全社的な内部統制の視点、非営利組織への内部統制の展開、ガバナンス、ERMおよび内部統制の三位一体の改革、さらには、コロナ禍の内部統制環境整備等、健全な企業経営の要である内部統制をめぐる議論は、広範に及ぶものとなっています。また、人工知能(AI)に代表されるテクノロジーの進展が内部統制に及ぼす影響についても関心が高まっています。
 わが国の内部統制報告制度は、米国のトレッドウェイ委員会支援組織委員会(COSO)の動向等を参考に、周辺制度との親和性や情報通信技術(ICT)の発展等の最新の論点に関する内外の多くの知見を加味して導入・改訂されてきました。その意味では、国際的にも遜色のない制度です。しかし、今日、多くの現場で内部統制疲れや制度の形骸化が指摘されています。紋切り型の現場対応や安易な評価姿勢で臨み、内部統制は有効と当初報告した企業が、後に不祥事が露見した際に遡って開示すべき重要な不備があったと訂正するモラルハザードが起きていると指摘されて久しく、また、制度導入後も不正会計が後を絶たず、その実効性があらためて問われています。このような問題に対しては、コーポレート・ガバナンス、ERMおよび内部統制を三位一体で捉えることで、三者の緊密な連携により内部統制の実効性が高まり、企業の経営理念の実現や戦略の達成が期待されるところです。内部統制を俯瞰的にみることは、制度の形骸化を防ぎ、内部統制の実効性を高める上で有効な視点と考えられます。
 2021年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードに謳われた会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上という視点も示唆に富むものといえましょう。環境、社会およびガバナンスを意識したESG経営や持続可能な開発目標(SDGs)が世界的に注目されていますが、そもそも、わが国は世界に名だたる長寿企業大国です。企業が長年にわたり存続してきた背景には、組織の統制環境等、内部統制上の強みが少なからず関係していると考えられます。長寿企業に体現されているともいえる持続可能性(サステナビリティ)の重視は、わが国企業が有する伝統的な特徴であり、こうした持続可能な内部統制という新たな切り口に焦点を当てることで、長期的な企業価値の向上を目指すというわが国企業の強みを最大限に発揮することにもつながります。その意味で、わが国長寿企業の内部統制に関する調査から、わが国企業固有の内部統制の特徴に関する有益な知見が得られるものと期待しています。
 今般のコーポレートガバナンス・コードの改訂の先には、内部統制の有効性、監査の信頼性の確保・向上を含むより広範な視点に立った内部統制報告制度の見直しも視野に入ってくるものと思われます。制度の形骸化は、内部統制本来の意義を正しく理解していないことも一因と考えられます。強靭な企業体質を構築し、持続可能な組織運営に資するために、攻守両面において内部統制を十分に活用すべく、今一度、原点に立ちかえって、ステークホルダーの期待に応える公正で健全かつ有効で効率的な内部統制報告制度の適用のあり方を一人一人が当事者意識をもって主体的に検討する必要があるでしょう。その際には、AIに代表されるテクノロジー・ツールの活用やデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進等も念頭におきつつ、わが国の企業内容等開示制度の全般的な最適設計の一環として、他の周辺制度等との関係性も含めて、新しい地平に立って総合的・包括的な観点から内部統制報告制度のあり方を検討することが必要とされましょう。また、わが国企業固有の特徴が反映された高度で自律的な内部統制を実現する上では、生命線ともいえる専門人材の育成・確保や内部統制の裾野の拡大に向けた教育・研修の充実を図ることも重要な課題といえましょう。
 第14回年次大会は、「コーポレートガバナンスの新展開と内部統制〜CGコード改訂後の企業経営と内部監査〜」を統一テーマに、オンラインで開催することと致しました。何よりも、会員の皆様の安全を確保しながら、研究や討論の機会をできる限り維持することを考えた末の結論ですので、ご理解を賜りたいと存じます。登壇者の皆様ならびにご参加いただく会員の皆様には、昨年に引き続いて、例年とは異なる準備や手続をお願いすることとなり、たいへん恐縮に存じます。多数の会員の皆様のご参加をいただき、実り多い年次大会となることを祈念しております。
 最後に、今回の年次大会を周到に準備してくださった一般社団法人日本内部監査協会の土屋一喜準備委員長ならびに関係者の皆様に対しまして、心から御礼を申し上げます。

敬具